2003年5月


文芸特殊研究1(第四回)

前回のしりあがり寿氏の授業内インタビューを受けてのフォロウ・アップ第一段、という位置づけに本日の授業はなるだろう。まず、先週の授業直後に出された課題レポートの中から一つをピック・アップし、課題を書いた学生本人に原稿を朗読させる。その直後、湯山先生はご自分の立場から、読み上げられたレポートの内容に関して、プラスとマイナス面を明確にしながらコメントしていく。先生のめりはりのある声と、よどみのないコメントは、授業をスピード感のあるものにしている。これが雑誌を制作する側の現場感覚というものだろうか。

授業風景個々のアドヴァイスもかなり具体的だ。その基準では、学校の外、もっと具体的にいえば商業ベースに乗っている雑誌などの世界ででどのくらい通用するか、しないか、という点である。複数の雑誌での編集長経験を持つ先生の言葉はやはり説得力がある。また、理路整然としていて、聞いていて気持ちいいものだ。

学生も本気で課題に取り組んできたようで、レポートの内容から、いろいろと自分なりの色を出そうと工夫している様子がわかった。インパクトのある導入で読み手を引きつけようとするもの。手書きの文字自体をデザイン性のあるもので際だたせようとするもの、ひたすら自己卑下や自己批判をしながら自虐的な笑いをとろうとするもの。また、比較的冷静にしりあがり寿氏の人柄や作品を分析したもの。文学的な表現に凝ったもの。どの学生も、それなりに読者という他者を意識した内容になっていた気がする。

湯山先生から生徒へのコメントを僕が覚えている範囲で書き出してみると次のようなものがある。
 授業風景

「……君の作品は冒頭で飛び道具が出てきてインパクトはあるのだけれど、中盤以降大人しくなってまとめようとしている感じがこちらにもわかってきてしまう」

「紋切り型の内容を突き詰めていって、全然紋切り型でない内容と結論にたどり着く……さん独特のセンスは面白い。どこかの雑誌で使ってみたいくらい」

「……さんのレポートはデザイン的に凝っていていいのだけれど、文章を読む側にとってはいらぬ先入観を与えてしまうこともあるので注意した方がいい」

「……君の表現には舌を巻きました。今回の中では一番でした。具体的な内容を抽象的なところに還元して、それを再び目に見える形の比喩でヴィジュアライズして読み手にわからせる、これは普通なかなかできないことです」

こういった形で、自分のレポートなり批評が、学外のいわばリアル・ワールドのリトマス試験紙にかけられた結果を知らされるわけで、学生たちにとって、とてもエキサイティングな経験になったに違いない。「先生のアドヴァイスを基にもう一度書き直してきます、読んでいただけますか」と質問する学生もいて、本気で授業に取り組んでいる様子が、こちらにも伝わってきた。


 
(2003.5.15)


ジャーナリズム論2(第四回)

赤羽先生の初授業日。
授業風景

講師室に先生がいらっしゃっていると聞いて挨拶にいく。新井先生や飯沢先生よりも年齢的にはひとまわり上の印象である。

話の枕は、ヨルダンの空港で毎日新聞記者が起こした爆破事件と、ニューヨーク・タイムズの記事捏造発覚事件だった。次に、ごく簡単な先生の自己紹介をされた。赤羽先生はオリンピックの取材を専門にされてきたスポーツ記者である。

まず、現在の話としてオリンピックにどのような種類のジャーナリズムが係わっているのか、という話を取材形態などのカテゴリー分けをしながら説明された。

本日の授業はオリンピックの歴史がメインだったといえる。古代オリンピックから近代オリンピックまで。初期の近代オリンピックには、平和友愛のイデオロギーが込められていた。その後、始まったオリンピックの政治利用。その具体例が、東西冷戦下のオリンピックのボイコット合戦であった。ロサンゼルス・オリンピック以降加速したといえる商業化。オリンピックの商業主義化が競技の数を増やしていったこと。
授業風景
僕個人の印象でも、最近のオリンピックは、近代オリンピックが目指していた平和と友愛などというイデオロギーからずいぶんかけ離れたところに来てしまっているように感じる。ナショナリズムを高揚させるための装置と化してしまったかのような感があるのだ。

そんなに一生懸命見ていたわけではないが、同時多発テロ後の、アメリカで行われた冬季オリンピックは、明らかに怪しい大会だった。まず、アメリカ国内で、テロ後に盛り上がりを見せたナショナリズムをさらに盛り上げるための装置としてオリンピックが政治利用された。また、韓国などのアジアの国々によるジャッジに対する抗議には、ほとんどとりあわなかったのに対して、ヨーロッパの有力国からの抗議には、比較的まともに対応し、時には判定が覆ったりした例があった。また、一部の競技で判定競技の審判同士の間に密約があったことも明らかになった。また、競争の激化が招いたと思われるドーピング問題は今後も起こることだろうと思う。アメリカ留学中の授業で、そういった競争激化やナショナリズムの激化、という流れにオルタナティヴを示す一つの試みとしてゲイ・オリンピックが開催されている、という内容の話が出たことがあった。ゲイ・オリンピックにおいては、ナショナリズムを意識させる国ごとのエントリー制度もなく、競争よりも、一緒に楽しむことを目的とするため、競技に順位はつけない、といった取り決めがあったように思う。まあ、この方が、近代オリンピックの黎明期に掲げられた平和や友愛というイデオロギーに合致するとは思うけれど、これがヘテロセクシュアルを世界を巻き込んだ大きな流れになる……というのも考えにくい。

先生の話は、オリンピックに関する広いトピックに及んだ内容だったが、僕自身はオリンピックとイデオロギーの関係についてもう一度考え直してみたい気分にさせられたのだった。(2003.5.15)


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